ナポレオンの映画化と言えば、「2001年宇宙の旅」の次回作としてスタンリー・キューブリックが実現の一歩手前まで行って挫折したことが映画ファンの間では語り草。
実現すれば、ナポレオン役はあのジャック・ニコルソンが内定していたのだから、本当に観たかった惜しい作品だ。
このキューブリックの「ナポレオン」は、キューブリックが執筆した脚本を元にHBOで近々スピルバーグが全7話でドラマ化することにもなっていて、そっちの方が楽しみではある。
と、そのキューブリック&スピルバーグ版ナポレオンより一足先に、ナポレオンを映画化したのが「エイリアン」「ブレード・ランナー」の名匠リドリー・スコットである。
しかもナポレオン役は「ジョーカー」でアカデミー主演賞に輝いたホアキン・フェニックス。
そりゃあもう期待は高い。
公開初日に二子玉で鑑賞。
その感想。
これはズバリ、佳作です。
惜しい!
星2つ半。★★1/2
なんというか、ホントに惜しい。
戦争スペクタクル映画としては、マジ凄いです。
異常な数のエキストラを使って撮っている大戦闘シーンはものすごい。
そういう意味では本当に100点。
しかし、ナポレオンという人間を描くという意味では、少し足りない。
そのせいもあり、上映時間がちょっと長い。
2時間38分の映画なんだけど、いい意味でも悪い意味でも伝記なのでストーリーが起承転結にならないため、少々単調。
だから長く感じるんだろうけど、それ以上にこの映画、中身に少し問題があると思う。
そもそも論として、キューブリックはナポレオンの映画化に際し「長い映画になる。まぁ『風と共に去りぬ』ほどではないかな」と言ったと伝わっており、あの映画は3時間42分なので、おそらくキューブリックの想定では3時間半はあったのだろう。
そのぐらいナポレオン・ボナパルトという大偉人の半生を描こうとすると尺が当然掛かるわけで、やっぱり誰もが学校で習って名前だけは絶対知ってるような偉人中の偉人なわけですよ、濃すぎの人生なわけです。
で、名匠リドリー・スコットはキューブリックばりに全てを描くのは無理だと思ったんでしょう。
思い切ってナポレオンを妻ジョゼフィーヌとの関係一点で描こうとしたんだと思う。
ほぼこの映画、ジョセフィーヌとの話と言って良い。
が、しかし!
ナポレオンを描く以上、戦争に次ぐ戦争という歴史は描かざるを得ない。
イギリスと戦ったり、エジプト遠征して戦ったり、ロシアに攻め込んだり、島流しになり、またフランスに帰還し、最後はワーテルローの戦いなわけですよ。
この歴史の流れは描かざるを得ない。
その結果、妻ジョゼフィーヌとのドラマ部分と、ナポレオン自身が辿った政治的な流れや戦争の流れを描く部分が、結構乖離している。
政争でこんなことになりました、戦争して勝ちました負けました、で、妻とはこんな感じでした……をどっちも両方やろうとした結果、どっちも中途半端な感じ。
そこが実にもったいないなぁと思う結果になってます。
なぜジョセフィーヌにあそこまで執着したのかがよく分からないし、なぜ戦争に勝ったり負けたりしたのかも実はよく分からない。
どっちも中途半端で消化不良。
で、淡々と実際の出来事が矢継ぎ早に流れていくので、まぁ、正しいと言えば正しいんだろうが、映画として盛り上がるところがない。
ナポレオンも妻ジョセフィーヌも行動動機がよく分からないので、観ていて全く感情移入が出来ない。
まぁ現実の人間はそのまま映したら何考えているかなんて分からないわけだし、人生は起承転結で進むわけでもないし、とんでもないドラマチックな瞬間が映画みたいに来るわけでもないので、この映画、リアルと言えばリアル、正しい伝記と言えば正しい伝記。
なので、好きな人はとことん好きなタイプの映画なんだろうけど、僕としては、人間くさく描くならもっと人間くさく、ナポレオンと妻ジョセフィーヌのドロドロの愛憎劇ばかり濃く激しく詳しくやって欲しかった。
表面上、ナポレオンもジョセフィーヌも相手に対して泣いたり怒ったりしてはいるんだけど、「なぜ?」がイマイチ伝わってこないのよ。
情緒不安定な男女が奇妙な距離感で相手を愛しながら憎んでる、みたいなことしかよく分からない。
スピルバーグが作るキューブリック脚本版「ナポレオン」はその辺どう描いてくるのか?
本当に出来上がるのかなぁ。
HBO頑張って欲しいなぁ。
正式発表が楽しみです。
まぁでもこの映画。
戦争シーンの迫力、残虐さは、19世紀初頭のヨーロッパの戦争ってこんな感じで人権無視の肉弾戦だったんだなぁと思えて、身震いします。
血みどろです、肉片まみれです。
あと、オープニングがいきなりマリー・アントワネットの斬首台シーンから始まるのも最高でした。
あ、見る前に、ナポレオンの基礎知識、ジョセフィーヌの基礎知識をある程度Wikipediaとかで読んでから観に行ったほうが置いていかれずに済んで楽しめると思います。
| Trackback ( )
|